大井町から直通にすると指扇まで1時間弱かかる。停車駅が多いので、むしろ乗換のある別ルートの方が早かったりもする(らしい。本当かどうかは調べていないので分からない)。それでも幾許かの時間を短縮させる為(若しくは幾許かのお金を節約する為)に他の線に変えたりはしない。僕は乗換が嫌いなのだ。更に言うなら、電車の中には色んな楽しみがあるのだからほぼ同じ時間味わうのであるなら中断されたくはない。居眠りをして、読書をして、好きな音楽を聴いて、色々夢想して、そして入れ代わり立ち代わりやってくる乗客の奥深い人生に想いを馳せる。
酔っ払っている風には見えないけれど、「あ〜疲れた」と腰を降ろす女性。チラリと回りを見て、さりげなくバッグの中からお菓子(チョコレート?)を取り出す。勢い良くポンっと口に頬張りキョロキョロとその大きな目だけを動かす様は、まるで森の小動物だ。一つ頬張る度に蓋を閉じてバッグにしまうくせにすぐまた次を取り出す。目的地に着くまでに食べられるだけ食べようとしているかのように一生懸命頬張り続け、とある駅に着いたら、シャキっと背筋を伸ばして馬の蹄のような音を立てながら勇ましく降りていってしまった。
そのすぐ横では微妙に赤い顔をした男性2人が小声でいちゃもんを付け合っている。とは言っても仲裁に入るほどのものではなく、回りの乗客も半分あきれ顔で見守っている。足が当たったんだか肩がきついんだか、そんなところだろう。2人とも周囲の目を気にしながら、しかも片方は外国人のようなので、会話(というか口論)も弾まなくって困っているようだ。やがてバカバカしくなったようで2人とも呆れ顔で寝たふり。なんとなくかわいい。
週刊誌を読みながら、ふと上(というか空なんだろう)を見上げてなんとも言えない笑顔を浮かべるサラリーマン。気を取り直して再び漫画を読み始める。でも駄目だ。また雑念が入ってしまう。空を見上げて想いを馳せるのだ。
トイレや風呂の次に無防備になる空間は、案外電車の中なのかもしれないなと最近思う。少なくとも家族が家で待っている人にとってみれば、回り100%が見知らぬ他人であるこの箱の中の方がだらけた顔をしてどうしようもない夢想が出来る時間を持てるんじゃなかろうか。
犬と猫しか待っていないくせに、僕は案外そういう類の人間だと思う。満員電車は確かにうんざりだけれど、電車に乗ること自体はそれなりに楽しい行為だと思っている。
乗り始めは一車両20人くらいだったのが100人ほどに膨れ上がり、やがてまた20人くらいまで淘汰される。ひょっとしてこの車両を一番長く利用しているのは僕なのかもしれない。ちょっと悲しくもあり、やはりちょっと嬉しくもある。